AIが絵を描き、小説を執筆し、交響曲さえ作曲できる時代が到来しました。「クリエイティブ」と呼ばれる領域において、人間はもはや不要になるのでしょうか？
世界最高峰のAIモデルに対し、私はある実験的な問いを投げかけました。 「クラシックギターの特性を完璧に理解し、人間が弾ける範囲の効率的な運指で、感動的な曲を作って実演できるか？」と。
答えは「No」でした。
AIは「データ」を作ることはできますが、ギターという楽器を鳴らすための「指」を持っていません。このブログ記事では、テクノロジーが進化する今だからこそ際立つ、人間にしか生み出せない**「運指の芸術」と「演奏の真実」**についてお話しします。
AIは「理論」を知っているが、「指」を持っていない
計算上の正解と、演奏上の正解の違い
もしあなたがAIに「難解な曲を作って」と頼めば、AIはものの数秒で、音楽理論的に正しい複雑な楽譜を出力するでしょう。しかし、それをギターで弾こうとした瞬間、多くのプレイヤーは絶望します。
なぜなら、AIは「ドミソ」の和音構成は知っていても、「ギターの3弦5フレットと2弦1フレットを押さえる時の、左手薬指の筋肉の張り具合」を知らないからです。（どちらも同じ音「ド」）
指板上の物理的な距離、弦の張力、指の太さ。これらを無視して書かれた譜面は、どんなに音が良くても「演奏不可能」あるいは「奏者に不要なストレスを与える非効率なもの」になりがちです。ここに、データ処理能力だけでは越えられない「身体性の壁」があります。
人間だから生み出せる「魔法の効率化」
「複雑に聞こえて、実は弾きやすい」という芸術
私が作曲と演奏において追求しているのは、単なる難易度ではありません。それは**「聴覚上は非常に複雑でスリリングに聞こえるが、演奏者にとっては驚くほど合理的で弾きやすい」**という体験です。
具体的には以下のようなアプローチを行っています：
- 開放弦の活用（カンパネラ奏法など）： 左手で押さえる音と、開放弦の響きを織り交ぜることで、少ない労力で倍音豊かな響きを生み出す。
- 6連符と右手の最適化（p-i-m）： 規則的な右手の動きの中に、アクセントやメロディを巧みに配置し、聴き手を「速弾き」の渦に巻き込む。
「ここで開放弦を使えば、左手が自由になり、次のポジションへ優雅に移動できる」。 こうした判断は、指板の上で何千時間も悩み、試行錯誤した人間にしかできない**「肉体的な知恵」**です。AIには計算しきれないこの「人間工学的な美しさ」こそが、私の作品の核心です。
きっと歴史上存在する偉大な楽器演奏者兼作曲家は、楽器と対話し、嫌というほど試行錯誤をしてきたのだと推測します。
動画が証明する「真実」の重み
生成AI動画には描けない「1ミリのリアリティ」
現在、動画生成AIは「ギターを弾いているような映像」を作ることができます。しかし、プロの目をごまかすことは難しいようです。音と指の動きが微妙にズレていたり、コードフォームがデタラメだったりします。
私が公開している演奏動画は、単なるBGMではありません。**「この複雑な楽曲が、計算され尽くした運指によって、実際に人間の手で演奏可能である」**という証明です。
1本の弦、1つのフレットを正確に捉え、意図した音色を響かせる。その一瞬一瞬の連続に嘘がないこと。 「本当に弾いている」という事実、そして「その難所をどう攻略しているか」というプロセスそのものが、見る人と演奏する人の心を動かすコンテンツになると信じています。
まとめ：テクノロジーを超える、人間の「指先」の未来
AIは素晴らしいパートナーになり得ますが、ギターという楽器が物理的な存在である限り、そのポテンシャルを極限まで引き出せるのは、やはり生身の人間です。
「複雑さを、知恵でシンプルに解く」
これこそが、AI時代における人間のギタリストの価値ではないでしょうか。私はこれからも、テクノロジーを理解した上で、人間にしかできない「最適な運指」と「実際の演奏」を通じて、クラシックギターの新しい可能性を追求し続けます。
ぜひ、私の動画と楽譜をご覧ください。そこには、AIにはまだ到達できない、人間と楽器の美しい対話があります。
